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久野はすみの短歌と日記


by hasumi-kuno
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大通りからちょっぴり入ったところに、
マスターがたったひとりでやっている喫茶店がある。
一見無造作に見えるしつらえは不思議な調和を保ち、居心地がいい。
そして必ず、おっ、というコーヒーを飲ませてくれる。
足立さんはわたしにとってそんな歌人である。

 水槽の壁はそこそこ透明でさびしいさかな さびしいさなか

「そこそこ」や「さびしい」は歌をつくるなら
なるべく避けるべき言葉だろう。
完全に澄み切ってはいないけど汚くもない水槽。
そこにいるしかない魚のさびしさ。
世界とは…いや、そんな理屈よりもまず、ひらがなの
「さびしいさかな さびしいさなか」の繰り返しに目がいく。
そこにあるのは、虚無だ。
この歌人は詩歌の常識とは逆のベクトルで
言葉を感知しているのではないだろうか。
例えば、次のような歌。

 ナーランダーチューリップらがナーランデー唱えていたり植物経を

 でろんでろでろんとぶるうす弾きおればおれとう已然形ぞかなしき

 なくなったものがおおくてたまらんよたまらんものがたまっているよ

一見、駄洒落のような、やけくそのような言葉たち。
実はこの歌集の背後には「妻の死」があるのだが
悲しみをストレートに出さず、少しずらして詠む。
そういう風にしか表せない、歌人の含羞がせつない。
そして奇妙に明るい悲哀が、読後にじんわりと沁みてくるのである。

 ほろろろろわれはまだまだ酔いたりずひつぎのまえでけむりをのめり

 飲んだかあ、ああ飲んだよう男らに嘘、本当の区別はあらず

宮崎在住。酒と肴の歌がとても良い。
無頼派の男歌である。ただし、とことんやさしい無頼派だ。
発見の歌もおもしろい。
言葉や文字、日常のふとした場面をひっくり返してみせる。

 飛行機雲の先頭をゆく飛行機の見えなくなって秋はひろいよ

 おじいさん・犬・おばあさん・中年が散歩する朝、猫の曖昧

なるほど、飛行機と飛行機雲の関係はそうとも言える。
確かに猫がいたとしてもそれが「散歩」なのかどうかはあやしい。
他にも可笑しい歌はたくさんあって、読み終わるまでに何度もふきだした。
観察力、発想力が生み出すフモール。
それは人間性が加味されてこそ味わい深いものになるのだ。
路地裏の喫茶店で感じるような、人生の味。
もっともっと引きたい歌はあるけれど、あえて引かない。
人に教えたくない、でもすごく教えたい歌集『でろんでろ』。
そこにはきっと、おっ、という歌があるはずだ。

 鮪鯖鱸鱈鱒鰻鯉鰈鰤鮫、がんばれ湯呑み

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by hasumi-kuno | 2013-07-03 21:02 | 歌集